統計解析ソフト JMP ブログ

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画期的なコロナ飲み薬、重症化を89%減少させるってどのような根拠から?

増川 直裕

 

週末(11月5日)に、今のコロナ禍から脱却できそうな希望のニュースがありましたね。米国ファイザー社が開発中の、新型コロナウイルス感染症を治療する飲み薬の臨床試験(第2/3相試験の中間解析)で、重症化するリスクを89%減少させるという結果が報じられました。

 

本記事では、この飲み薬、パクスロビド(PAXLOVID)が、重症化リスクを89%減少させるとは、どのような結果を根拠に算出されたのかについてお伝えします。併せて、リスクの89%減少というのはあくまで限られた患者から得られた推定値なので、推定に対する信頼区間を算出して考察していきます。

 

ファイザー社のホームページに記載されているニュースによると、重症化リスクを持つ、入院していない大人の患者が対象で、ランダムにパクスロビドを投与したグループと、プラセボ(偽薬)を投与したグループに割付した結果、登録後28日以内に入院した患者の割合を比較しています。

 

パクスロビド投与:389人中3人が入院(死亡者なし)

プラセボ投与:385人中27人が入院(その後7名が死亡)

 

■入院リスクの比較

下の図は、この結果をクロス集計表と割合を示すグラフ(シェアチャート)で示したものです。

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各投与グループの入院割合を計算すると、パクスロビド投与グループは0.77%(= 3 / 389)、プラセボ投与グループは7.01%(= 27 / 385)です。2つのグループの割合を比較する一つの指標として相対リスク(Relative Risk)がありますが、今回の例において、”パクスロビド投与グループ” の ”プラセボ投与グループ” に対する入院に関する相対リスクは次のように計算されます。

 

 

相対リスク

= パクスロビド投与グループの入院割合 ÷ プラセボ投与グループの入院割合

=(3 / 389) ÷ (27 / 385)

= 0.11

 

つまり、パクスロビドを投与すると、プラセボを投与することに対する相対的なリスクは0.11(11%)に減少することを示しています。これより入院のリスクがどれぐらい減少されるかで考えると 89% (100% - 11%)という、ニュースで報道された数字となるのです。

 

■相対リスクの信頼区間

前節で計算された相対リスクの値(= 0.11)は、あくまで試験で対象となった限られた患者での推定値です。そのため推定値だけでなく、その信頼区間も考えた方が良いでしょう。

 

下図は、今回求めた相対リスクの推定値とその95%信頼区間を算出したものです。

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これより、相対リスク(= 0.11)に対する95%信頼区間は、およそ0.03~0.36 と案外広い区間であることがわかります。そのため、ラフな言い方をすると、入院のリスクの減少は、64%~97%と幅をもって考えることになります。64%と低めに考えても、かなり効果があるなという実感ですが。

 

当然のことながら、サンプル数が多いほど推定に対する信ぴょう性は高くなるので、信頼区間は狭まります。仮に、今回の臨床試験の投与者数、入院者数ともに10倍多かったとします。すなわち、パクスロビド投与グループは3,890人中30人入院、プラセボ投与グループは3,850人中27人が入院となりますが、このときの相対リスクは、先ほどと同様に0.11ですが、95%信頼区間は0.08 ~ 0.16です。実際の例と比べて、信頼区間がかなり狭まっていますね。

 

今回の中間解析の結果は、有効性と安全性が十分に示されたということで、今後承認申請が行われるようですが、問題なく承認され、実際のコロナ患者に利用できるようになれば、患者側としても医療機関側としても大きなメリットを享受できそうですね。その頃には、コロナ前のように、公の場でマスクをしなくて済む生活が待っているのかもしれません。

 

※ここで求めた相対リスクの信頼区間は、対数スケールに基づくWald信頼区間をもとに算出しています。

参考:Alan Agresti著:An Introduction to Categorical Data Analysis (2nd Edition)

 

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