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ジェンダーギャップを解消するにはどうしたら良いか?~指数を分析してみてわかったこと~

先日、世界経済フォーラム(WEF)から、ジェンダーギャップに関するレポート(2023)が発表されました。

 

レポートの中で用いられている「ジェンダーギャップ指数」は、各国における男女格差を数値化したものです。0~1までの値をとり、スコアが1に近いほど男女格差は小さいことを示します。レポートでは146の国を対象としていますが、何と日本は125位で、前年と比べて9ランクダウンしています。

 

今回、ニュースでこのような指標があることをはじめて知りました。せっかくの機会なのでジェンダーギャップ指数について勉強し、指標の可視化/要約、指数と国の指標(GDP、男女比など)が関係するかについて分析してみました。

 

地域別、国別のジェンダーギャップ指数を可視化

まずは、対象となる146国の(総合的な)ジェンダーギャップ指数(スコア)を地図に色を付けて表してみました。

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スコアの範囲は(0.405 - 0.912)です。平均、中央値ともに0.711なので、極端に指数の値が小さい(0に近い)国はなく平均値が0より1に近いので、全体的に男女間差は小さいということになるのでしょうか。

 

地図をみると、はっきりではないですが地域間で値の大小があるように見えます。

 

そのため、地域別*に分けて各国のスコアをプロットした図を示します。青い縦棒はその地域のスコアの平均値を表し、注目する国にはラベル(順位, 国名)を付けています。

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*ここで分類した地域は、上記の"ジェンダーギャップに関するレポート"で定義されたグループで分けています。

 

この図より、次のようなことがわかります。

  • 多くの国が属するヨーロッパは比較的スコアが高く、北欧のアイスランドノルウェーフィンランドが上位1,2,3位になっている。
  • 最下位のアフガニスタンは、他の国に比べ極端にスコアが低い。
  • 平均的にみると、中東/北アフリカ、南アジアのスコアが低くなっている。
  • 日本から近い韓国(105位)や中国(107位)もスコアが低くなっている。

それなりに指数に地域間、国間の差があるようです。

 

上記で紹介したジェンダーギャップ指数は、4つのサブカテゴリ(経済、教育、健康、政治)に対する男女格差を0~1でスコア化し、これらスコアの単純平均により算出されています。レポートに合わせて、以下は次のように表記しています。

 

サブカテゴリ一覧

経済:Economic Participation and Opportunity

教育:Educational Attainment

健康:Health and Survival

政治:Political Empowerment

 

ジェンダーギャップ指数も含め、4つのサブカテゴリに対するスコアの分布を示します。

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カテゴリ間で分布は大きく異なることがわかります。教育や健康に関してはほとんどの国が1の近くに分布していますが、政治については0.1あたりを中心に右に裾を引いています。

 

対象とした国について、現在のところ教育と健康については男女格差が小さく、政治に関しては男女格差が大きいようです。

 

各国のカテゴリ間の差をみるために、各国の値を折れ線で結んだ「パラレルプロット」を描いてみました。折れ線は地域で色分けしています。

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このグラフをみると"政治"に関してのスコアのばらつきは大きいことが読み取れ、結局のところ"政治"のスコアがジェンダーギャップ指数に大きく寄与しているようです。

 

日本の”政治"に対するスコアは0.057で138位です。政治のスコア要素としては、議員の女性比率や歴代首相に女性がいるかなどがあるため、女性議員の比率が低い、過去に女性首相はいないことが日本はマイナス要素になってしまいます。

 

ジェンダーギャップ指数と関連する要素は?

それでは、ジェンダーギャップ指数のばらつきは、国のどのような要素で説明できるのでしょうか。

レポートでは各国に対する一般的な指標(General Indicator) として、次のような指標を挙げています。

 

一般的な指標

男女比(女性の数/男性の数): Population Sex Ratio (%, female/male)

人口増加率(2021年/2020年):Population Growth Rate (%)

1人あたりのGDPGDP per capita ($1000)

人口:Total Population

 

これらのデータは主に世界銀行(World Bank)から入手しています。この後で分析する際、"1人あたりのGDP"と"人口"については常用対数を用いた値を利用します。

 

これら4つの指標と、ジェンダーギャップ指数(サブカテゴリも含む)との相関関係を調べてみましょう。ただし後者については、前述したように分布が偏っているものもあるため、すべてロジット変換を行ったものを用います*。

 

すなわち、次の組み合わせについて相関をみていきます。

 

合計20個の組み合わせ: 

"Y(ジェンダーギャップ指数、サブカテゴリ)5つ" × "X (一般的な指標) 4つ"   

 

*元の値が0や1のものがいくつかありますが、ロジット変換する際は、0より少しだけ大きい値、1より少し小さい値にして変換しています。

 

JMPでは「応答のスクリーニング」プラットフォームで上記のYとXを指定すると、すべての組み合わせについて、統計量をまとめたレポートを表示することができます。

 

下記のレポートは、すべてのY,Xの組み合わせについて、R2乗が大きい順に並べたものです。

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R2乗をみると、際立って大きくなる組み合わせはありません。一番大きいのは教育×一人あたりのGDPの組み合わせで R2乗は0.41程度、相関係数にすると約0.64です。

 

詳しく調べたい組み合わせのレポートを選択し、「応答のスクリーニング」の左にある赤い三角ボタンから[選択した項目の二変量関係]を選択すると、「二変量の関係」のレポート(散布図に直線をあてはめたもの)が表示されます。

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1人当たりのGDPが高くなるほど、教育に関するスコアは上昇する相関関係が読み取れます。ただし、GDPが低くてもスコアは高い国もあり、回帰直線ではそれらの関係を説明できていないことに注意が必要です。

 

ジェンダーギャップ指数と一般的な指標との関係のみピックアップしてみます。R2乗をみるとどの関係もそんなに高くはありません。

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これらの指標の複合的要因で説明できるかもしれないと考え、ジェンダーギャップ指数を目的変数*、指標(GDP、男女比等)を説明変数にした重回帰分析を行ってみます。併せて地域も要因として加えたモデルもあてはめ比較してみます。

 

*先ほど、ジェンダーギャップ指数はロジット変換していましたが、この指標についてはそのままでもさほど分布は変わらないので、わかりやすさからここでは変換しないそのままの値を用います。

 

JMPの「モデルのあてはめ」を使って分析を行った結果を示します。

 

  1. 左下の4パラメータモデルは、4つの指標を説明変数にしたときのレポートです。検定の有意水準5%としたときGDP, 男女比、人口の3つが有意になっています。
  2. 右下の5パラメータモデルは、4つの指標にと地域"を説明変数にしたときのレポートです。"地域"が高度に有意になり、こちらではGDPのみ有意になっています。

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”地域”を含めることによって、自由度調整済みR2乗は0.258から0.410と上昇します。

 

さらに5パラメータモデルについて、有意でない要因を削除してシンプルなモデルにすると、次の2パラメータモデルになります。このときの自由度調整済み寄与率は0.407となり、5パラメータモデルとほとんど変わりません。

 

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このモデルで、"地域"と"一人あたりのGDP" でジェンダーギャップ指数の約44%説明できていることになります。ほかにもジェンダーギャップの要因としてはほかの社会的な要因、国特有の要因などが考えられそうですので、2つの要因で44%ぐらいであれば、まあまあ説明できているのかなといった感じです。

 

日本のジェンダーギャップ指数を高めるには

最後に、今回作成した2パラメータモデルについて、日本のジェンダーギャップ指数の予測値を「予測プロファイル」で表現してみました。

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スコアの予測値は0.73(95%信頼区間 0.704~0.756)になります。一方、実際の日本のスコアは0.647です。

 

東アジア・太平洋地域に属していて、一人あたりのGDP(対数)が1.61であればスコアの平均は0.73で95%信頼区間は(0.704~0.756)なのに、日本のスコア(0.647)は信頼区間の下限よりも小さくなっているのであまりよくないですね。"ジェンダーギャップの解消にもっと腰を入れて取り組んでくださいね" とでもいっているかのようです。 

 

これまでの分析でみたようにジェンダーギャップ指数を高めるには、女性の政治参画割合を増やすことが当面の課題になってきそうです。現在の与党である自民党では、今後10年間で女性議員の割合を3割まで引き上げることを目標に掲げていますが、果たしてどうなるのでしょうか?

 

最後まで読んでいただき有難うございました。

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by  増川 直裕(JMP Japan)