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祝!藤井聡太新棋聖 持ち時間が長い方が強いってホント?

藤井棋聖は、将棋では不利とされる後手番が非常に多いにも関わらず、高い勝率を残していることを前回の記事で書きました。

jmp-japan.hatenablog.com

今回の記事では、持ち時間と勝率の関係を調べてみます

 

  • 持ち時間と勝率の関係

将棋では、棋戦ごとに持ち時間が決められています。例えば棋聖獲得後に菅井八段に勝利した将棋日本シリーズ(予選)は持ち時間10分の早指し戦ですし、棋聖戦(本戦以降)は4時間、現在タイトル挑戦中である王位戦(タイトル戦)は2日制の合計8時間です。棋戦ごとに持ち時間が異なるので棋士は柔軟な対応を求められます。

 

最近の藤井棋聖の将棋は、中盤長考するケースが良く見られ、持ち時間をフルに使う将棋を指されています。一方、非公式の早指し戦で2回連続して優勝するといった早指しの能力にも定評があります。

 

以下は、藤井棋聖が2020年7月18日までに対戦した公式戦(218試合)について、持ち時間の勝ち負けの関係を示したモザイク図です。(モザイク図の見方は、前回の記事で説明しています。)

 

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218試合の勝率は84.4%です。モザイク図をみると、この勝率より高いのは持ち時間が5時間と6時間以上のときになります。特に6時間以上のときは1敗しかしておらず、勝率は97.1%と驚異的です。この結果より、藤井棋聖は持ち時間が長いほど、強さを発揮すると考えても良いのでしょうか?

 

ここに統計の結果だけで考えて解釈するときの落とし穴があります

 

藤井棋聖が今までに対局した6時間以上の棋戦を挙げてみます。

 

6時間:順位戦 32試合

8時間:王位戦(タイトル戦) 2試合

 

そう、ほとんどが順位戦なのです。順位戦は5つのクラスに分けて行われ、現在藤井棋聖はB級2組と上から3番目のグループに属しています。そのためこの順位戦では、上のグループであるA級やB級1組に属している強い棋士とは戦っていないのです。藤井棋聖の実力からすると、格下と見られる相手と多く対局しているので勝率が高くなっていると考えることもできます。

 

または、6時間の長い持ち時間でじっくり考えられるので勝率が高いとも考えられますし、”格下の相手”、”じっくり考えられる”のどちらの要素も影響しているのかもしれません。

 

持ち時間の違いで、勝率に差があるかどうかを調べるために、Pearsonのカイ2乗検定を実施した結果を示します。

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p値が小さいほど帰無仮説 ”持ち時間の違いによって、勝率に差がない” を棄却し、持ち時間の違いで勝率に差がある といった結論が導けますが、Pearsonのカイ2乗検定は0.2577となり、通常考える有意水準0.05より大きくなっていますので、帰無仮説を棄却できません。

 

モザイク図の割合を見る限り、持ち時間6時間以上で、他の持ち時間より勝率が上がっていますが、有意な差ではないといった考察になります。

 

今後藤井棋聖がタイトル戦に多く出場すれば、持ち時間の長い将棋で対局する機会が増えるかと思います。持ち時間が長い方が強みを発揮するかどうかは、もっと対局が増えた後に考察が必要でしょう。

 

  • 持ち時間と勝率の関係を”先手/後手” で分けてみると

持ち時間と勝率の関係を、さらに”先手/後手”で分けて見てみましょう。

 

統計的には、”持ち時間”と”先手/後手” の交互作用が勝率に影響しているのかを見ていることになります。

 

下図は、横軸に持ち時間、縦軸に勝率をプロットした折れ線グラフで、赤色が先手、青色が後手を示します。

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 少し興味深い結果になっています。持ち時間3時間までは先手の勝率が後手の勝率に対し差が大きいですが、4時間、5時間と徐々に差が小さくなり、6時間以上だと逆転します。ご覧の通り、6時間以上の後手の勝率は100%であり、一度も負けていないのです。

 

先ほども記載した通り将棋は後手が不利なゲームですが、藤井棋聖は長い持ち時間を活かし、この不利さを解消しているのかもしれません

 

きちんと検証するにはもっと多くのデータがあった方が良いですし、他の棋士との比較もあった方が良いですので、今後もデータを収集し、何か面白い結果をお知らせできればと考えています。

 

今後、藤井棋聖の持ち時間の長い後手番の対局に注目です!

 

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