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プロ野球 ホームでは応援が力になるって本当なのか? ~2020年の特殊な応援状況により調べてみた~

増川 直裕

 

今年のプロ野球は、福岡ソフトバンクホークスが日本一になり幕を閉じました。昨年に続き、読売ジャイアンツ(以下:巨人)に対し4連勝したため、パ・リーグセ・リーグの実力差が話題に挙がっていますが、日本シリーズの1、2戦で巨人はホーム球場である東京ドームで試合ができず、京セラドーム大阪で戦わないといけなかったことはホームチームの利を考えたとき不利な状況だったと思います。

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2020年(今年)のプロ野球レギュラーシーズンにおいて、ホームチームの勝率は57.6%でした。

 

新型コロナウイルスの影響で無観客、または観客数を制限しての開催となり、ホームチームの応援が例年に比べて少なくなったにも関わらず、57.6%という勝率は高いように感じませんか?

 

この勝率は2020年の引き分けを除いたホームチームの全試合を対象にしており、680試合中392勝しています。”勝ち”の割合に対する95%信頼区間を調べてみると、下側は53.9%、上側は61.3%です。

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下側95%信頼限界(53.9%)が50%を超えているので、ホームチームが勝ちの割合が有意に高いことになりますが、応援があまりなかったにも関わらず、ホームチームの勝率は高いのです。

 

ホームチームの応援の効果って本当にあるのでしょうか?そこで、2020年の応援に関する特殊な状況を利用して調べてみます。

 そのために、いくつかの状況でホームチームの勝率を比較してみます。本記事では、次の2つの比較をおこないます。

 

  1. 2020年と他の年(2019年以前)と比較してみる
  2. 2020年の観客数(無観客、観客がいる場合)で比較してみる

 

1. 2020年と他の年(2019年以前)で勝率を比較

最初に今年のホームチームの勝率(57.6%)を示しましたが、過去5年間のホームチームの勝率と比較してみます。

 

2015年~2020年のホームチームの勝率を折れ線グラフで示します(図1)。

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図1

 

驚くべきことに、直近の6年間でみると、今年が最も高くなっています。

2018年はなぜかホームチームの勝率は50.2%とほぼ半々ですが、それ以外の年は、ホームチームに対する何らかのアドバンテージを受けていると言えそうです。

 

応援の効果を調べる方法として、

①2015年~2019年のホームチームの勝率(応援がある状態)

②2020年のホームチームの勝率(応援がない、またはあまりない状態)

について① から ②を引き算し、ゼロより大きいかをみることが考えられます。

 

ただし、①と②で応援以外の要素を一緒にしないと、たとえ①が②より大きかったとしても、それが応援の効果なのか、それ以外の効果なのか分からなくなってしまいます。

 

そのため、①の勝率を求める際、出来るだけ②と同じ条件で勝率を比較したいため、次の条件を満たす試合のみを対象とします。

 

①の分析対象条件

  • ホームチームの本拠地、または準本拠地を対象とする (地方球場などは対象としない)
  • 同一リーグ内の対戦を対象とする(交流戦は対象としない)

 

2020年は上記の条件のように地方球場の試合はなく、交流戦がなかったからです。

 

図2のオレンジ色の折れ線グラフが、上記の分析対象条件の試合に絞ってホームチームの勝率を計算したものです。青色の折れ線(点線に条件をつけていない勝率(図1と同じもの)を比較のために示しています。

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図2

 

できるだけ条件をそろえても、結局のところ、2020年のホームチームの勝率が最も高くなっています。

そのため”応援の効果はほとんどないのでは”といった考察になってしまいます。

 

無観客や観客数を制限したときの方が、ホームゲームでの勝率が上がるとなれば、応援が逆効果になってしまっているのかもしれません。または、今年特有の何かしらの効果があるのかもしれません。

 

そこで、今度は2020年の中で、ホームチームの観客動員数と勝率との関係を調べてみます。

 

2. 2020年の観客数(無観客、観客がいる場合)で勝率を比較

2020年は、6月19日の開幕からしばらく無観客での試合が続きましたが、7月10日から上限5,000人までの観客を動員できるようになり、さらに9月19日には収容人数の50%まで緩和されました。

 

そこで、観客動員数の制約により次の3つのフェーズに分けてみます。

 

フェーズ1 : 無観客 (6/19~7/9)

フェーズ2 : 5,000人まで (7/10~9/18)

フェーズ3 : 50%まで (9/19~11/14)

 

次の図3は、週ごとの1試合平均観客動員数(青色の棒)と、ホームチームの勝率(赤色の折れ線)をグラフにしたものです。

 

フェーズの分かれ目に、紫の点線を入れています。

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図3

 

折れ線グラフをみると、勝率が高い週や低い週はありますが、フェーズが上がる、すなわち観客数が増えると、勝率が高くなるといった傾向をみることはできません。

 

フェーズごとに勝率を比較してみます。図4はフェーズごとに勝ちの割合、負けの割合を示したモザイク図です。

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図4

 

フェーズ1の試合数は、他のフェーズより少ないため横軸の幅は狭くなっていますが、勝率は57.7%であり、観客をいれたフェーズ2の勝率より高くなっています。また、一番観客数が多いフェーズ3の勝率は59.7%と、他の2つのフェーズより高くなっています。

 

少し恣意的ですが、無観客か否か、または50%上限の前か後か分けたときのモザイク図を図5に示します。

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図5

 

左側のモザイク図をみると、無観客のときの勝率(57.7%)と観客をいれたときの勝率(57.6%)はほとんど変わらないことがわかります。

 

右側のモザイク図をみると、50%上限後の勝率(59.7%)は、50%上限前の勝率(56.5%)に比べて高くなっているので、観客をある程度入れるようになると応援の効果がでて勝率が高まると考えられなくもないです。

 

しかし割合の推定ベースで考えると、割合の差は約3.2%、割合の差に対する95%信頼区間は-4.5%~10.8%です。信頼区間は0%を含むので有意な差ではありません。そのため、50%上限後が50%上限前に比べ有意に勝率が高いとは言えません。

 

ここまでの考察は、レギュラーシーズンのホームチームの勝率に固有のトレンドがないと仮定しています。例えば、終盤になると順位争いが熾烈になるため、応援の熱さなどホームチームに有利な状況が働くことがあるのかもしれませんが、それは考えていません。

 

  • 結局のところ応援の効果は?

これまでの分析結果によると、応援があるとホームチームの勝率が高くなるとは言えなそうです。明確な根拠があるわけではないですが、私個人的には、応援よりも、応援以外のホームチームの利点(ホームチームは裏の攻撃になるため戦略を立てやすい、ホーム球場の特性を良く知っている、移動の負担が少ないなど)の効果が大きく、ホームチームの勝率は高くなっているのだと思います。

 

とはいっても、選手としてはファンの応援が力になることは間違えないと思いますので、今までの話は関係なく、是非ひいきチームを応援しましょう。

 

2020年も師走に入りましたが、イベントの人数制限は来年2月まで続くようです。このままコロナが続けば、来年も観客を制限しての開催になる可能性が高いです。すると、今回の分析をさらに進めるデータが得られることになりますが、そんなことを期待はしていません。

 

とにかく元にもどって欲しい・・・ その一心です。 球場いっぱいに「かっとばせ!」といった声援が鳴り響くことを期待します。

 

今回の記事に関連する分析結果は、以下のサイトで公開しています。チームごとの (ホームの勝率 - ロードの勝率)を算出していますが、12チームの中で1チームだけこの値がマイナス、つまりホームよりロードの方が勝率が高いチームがありました。その球団はどこでしょう? 答えはこのサイトの中にあります。

 

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