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熱中症と関係する指数「暑さ指数(WBGT)」を知り、今年の熱中症対策を!

増川 直裕

 

今年(2021年)の夏も全国的に暑くなると予想されています。外出するときは、マスクをつけながらの行動が求められていますので、熱中症には十分注意ですね。

 

ところで近年、暑さを示す指数として気温の他に、”暑さ指数(WBGT)” という指数を見聞きするようになりました。私は昨年、初めてこの指数を知りましたが、熱中症と関係する指数で、気温だけでなく、湿度などの情報を取り入れて算出されたものであることが分かりました。

 

昨年の夏に、ときどき熱中症警戒アラートという放送が流れていましたが、このアラートは暑さ指数をもとに算出されているようです。暑さ指数については、以下の環境省熱中症予防情報サイトに詳しく、分かりやすい説明があります(以下、暑さ指数をWBGTと表記します)。

 

環境省 熱中症予防情報サイト

https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php

 

夏の暑い時期になると、”今日は熱中症で〇〇名が病院に搬送されました” というような報道がニュース等で流れます。WBGTが熱中症と関係するのであれば、WBGTの予報を意識することによって、この日はあまり外に出ない、運動をしないなど熱中症対策を事前に行うことができるのでしょう。

 

そこで本記事では、公開されているデータからWBGT、気温、熱中症救急搬送者数の3つの関係を調べ、WBGTと熱中症の関係をより詳しく把握してみます。

 

 

さまざまな地点のWBGTが公開されていますが、今回は東京都を対象に、昨年(2020年)、一昨年(2019年) 6月から9月までのWBGT、最高気温、熱中症救急搬送者数についての関係を調べてみます。そのため、以降は東京都のデータを考察していますが、大阪府や愛知県(名古屋市)でも同様の傾向を示します。

 

データの出典

WBGT熱中症予防サイト(上記記載)

 

最高気温気象庁のサイト

https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html

 

熱中症救急搬送者数総務省消防庁のサイト 

https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html

 

注意:WBGT、最高気温については東京の計測地点の値を使用していますが、熱中症救急搬送者数は、その地点に対応する情報が入手できなかったため、東京都全体を対象としています。

 

■WBGT、最高気温、救急搬送者数の傾向

以下のグラフは、2020年、2019年に対し、日ごとのWBGT、最高気温、救急搬送者数を示したものです。上側の青の折れ線がWBGT、真ん中の赤の折れ線が最高気温、下側のオレンジの棒グラフが救急搬送者数です。WBGTと最高気温の折れ線グラフには、その年における最大値を数字で記載しています。

 

2020

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2019

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2020年と2019年とでは暑さのピークがずれてはいますが、どちらの年も、WBGTや最高気温が上昇すると急激に救急搬送者数が増加する傾向があることがわかります。

 

時期的な傾向をみると、7月の中旬までは救急搬送者数が少ないですが、夏本番となる7月下旬から8月にかけて急激に増加し、9月になって落ち着いてきています。

 

また、2020年の8月下旬や、2019年の9月の上旬のように、暑さが若干落ち着いた後にぶりかえすと救急搬送者数が増加するようです。

 

WBGTと最高気温の関係に注目してみると、WBGTが低いときは最高気温が低く、WBGTが高いときは最高気温が高いので、双方の関連性が強いですね。

 

■WBGT、最高気温との関係

下図は、日ごとのWBGTを横軸に、最高気温を縦軸にした散布図です。緑色の領域は95%確率楕円を示し、プロット点の色は救急搬送者数が多い日は濃い赤色に、少ないときは濃い青色にしています。

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図の左上に相関係数(r ) を示していますが、2019年は0.961、2020年は0.966といずれも大きな値を示すので、WBGTと最高気温の相関が非常に高いことがわかります。そのため、ニュース等で簡単に情報が入手できる予想最高気温を元に熱中症の対策を考えることでも大きな問題がないのかもしれません。

 

上図の2020年において、アスタリスク(*)の2点(2つの日)は、最高気温はほとんど同じで、WBGTの高い方(8/12)が、救急搬送者数が多くなっている例です。

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ただ、最高気温はほぼ同じで、WBGTが低い方が救急搬送者数は多くなっている、といった逆のパターンもありますので、必ずしも、WBGTの方が最高気温より、救急搬送者数を説明する指数として優れているというわけではないようです。

 

では、WBGTを熱中症予防の指数として用いるメリットは何でしょうか?

 

■WBGTによる生活指針

WBGTは、その値により日常生活、運動に関する指針が示されていることがポイントです。

 

今度は、2020年、2019年それぞれに対し、WBGTを横軸に、救急搬送者数を縦軸にした散布図を描いてみます。グラフ上の赤い点線は、データにフィットする指数関数の曲線です。

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グラフから、救急搬送者数はWBGTが25℃あたりから増加が始まり、30℃あたりから急激に増加することがわかります。やはり夏場の暑い時期に、熱中症の方が急激に増加するといった私たちの感覚に合っている結果かと思います。

 

最初に示した環境省のページにも記載されていますが、WBGTを指数として用いた日常生活に関する指針が次のように4段階で示されています。

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丁度、上記のグラフで示したように、WBGTが25や30あたりで救急搬送者数が増加していくといった事実と大体合致していますね。

 

下図は、指針の4段階で分けたときの救急搬送者数の1日あたりの平均値を棒グラフで示したものです。青色の棒が2019年を、紫色の棒が2020年を示します。

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WBGTの基準が上がるごとに救急搬送者数が上昇し、31℃以上の多さは顕著ですね。

 

31℃以上のカテゴリにおいて、2020年は2019年に比べ大きく減少していていますが、実は合計人数でみると2020年の方が多くなっています(31℃以上になった日は、2019年で24日、2020年で29日あります)。

 

2020年はコロナ禍で外出が減ったため1日あたりの救急搬送者数は減ったが、WBGTが31℃以上である”危険” を示す日が多かったため、合計人数としては多くなっているといったところでしょうか。

 

■WBGTを意識してみる

冒頭でも挙げた熱中症警戒アラートは、WBGTが33℃以上になったときに発令されるようです。31℃以上が”危険” に属しますが、33℃以上であれば、非常に危険といったところでしょうか。

 

WBGTが33℃以上になったのは、2019年、2020年ともに7日あります。今年はどうなるでしょうか。

 

一番良いのは、多くの方がWBGTを意識して対策を行い、対策の結果、熱中症の患者が減少することだと思います。現時点で東京オリンピックがどのような形で行われるかわかりませんが、外出者が増加し、しかもマスクをしながら外出すると考えると、想像しただけで気分が悪くなりそうです。

 

これからは、暑さ指数である”WBGT”を意識し、熱中症には十分気をつけましょう。

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