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「コロナ離婚」は本当に起こっているのか? データ分析によりわかる本当の傾向

                                   増川 直裕

 

今年(2020年)4月に緊急事態宣言が出されたころ、自粛により家に夫婦が一緒にいる時間が長くなることで夫婦間の仲が悪くなる、価値観の違いが露呈したことなどを原因とした離婚、いわゆる「コロナ離婚」が話題に挙がりました。テレビやネットのニュースでは、コロナ禍で離婚した夫婦のインタビューや記事を流れていましたので、あたかもこの渦中に多くの夫婦が離婚しているのではないかという印象を受けた方も多いのではないでしょうか。

 

ただ、離婚件数に関するデータを分析してみると、印象とは異なる興味深い結果が得られます。本記事では、離婚件数のデータを分析してみることにより、現時点で分かるコロナ離婚の実態を調べてみます。

 

 

厚生労働省が発表する人口動態統計を参照することにより、月ごとの離婚件数がわかります。そこで、2014年1月から2020年7月(本記事執筆時点における最新の公表月)の離婚件数*をデータとして用います。

 

*注意:速報値を用いています。

 

  • 2020年の離婚件数は

下図は、年ごとの離婚件数を棒グラフにしたものです。グラフ上の点線は2020年1月から7月までの離婚件数を示しています。

2019年の離婚件数は212,955人ですが、今年2020年の離婚件数は7月までで116,330人です。

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2015年から2019年まで減少傾向が見られますが、特に1月から7月の総数を見ると、2020年は他の年に比べ離婚件数が少ないことがわかります。2015年の1月から6月まで(上半期)の総数にも達していません。

「コロナ離婚」という言葉が独り歩きしているだけで、今までのところ離婚件数は増えているどころか、むしろ減っているのです。

 

  • 離婚件数のトレンドを把握

月ごとの離婚件数の推移をみるために、折れ線グラフにしてみます。赤色は月ごとの離婚件数をつなげた折れ線グラフであり、青色はトレンドを示す平滑線というグラフです。

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離婚件数には明らかな季節性があり、3月が他の月に比べて圧倒的に多いことがわかりますが、2020年4月以降の傾向が他の年と明らかに異なっています。そう、4月、5月と大幅に減少しているのです。ちょうど政府が緊急事態宣言を出したタイミングと一致します。

 

月ごとの傾向を分かりやすくするため、横軸を月(1月から12月)とし、各年を重ね合わせた折れ線グラフを描いてみます。2020年は赤い太線で示しています。

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2020年4月、5月と連続して大幅に減少しているのは、他の年には見られないことです。さらに興味深いのは、2020年6月、7月は上昇に転じていることです。4月、5月は緊急事態宣言があり、離婚という行動を起こしづらかったが、宣言が解除された6月以降に行動を起こしたということなのかもしれません。

 

とはいえ、2020年6月、7月の離婚件数も、他の年の同月に比べれば少なくなっています。先に離婚件数は減少傾向にあることは述べましたが、2020年6月、7月の離婚件数が少ないのは、減少傾向によるものなのか、減少傾向を加味しても少ないのか? このことを時系列分析により確認してみます。

 

  • 時系列分析による離婚件数の予測と実際の件数との比較

2014年から2019年の離婚件数に対する月次データに対し、季節変動を考慮した時系列モデルをあてはめ、2020年各月の離婚件数の予測値を算出します。予測では離婚件数が減少傾向であることも考慮されています。予測値と実際の離婚件数を比較して、実際の離婚件数が、過去のデータから予測される離婚件数と乖離しているのか、していないかを調べてみます。

下の図は、時系列分析により予測した離婚件数を水色の折れ線グラフで示し、実際の離婚件数(黒色と紫色の点)と比較しています。(注意:実際は2014年から2019年のデータで2020年を予測していますが、下図は2016年末からの結果を示しています。)

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図の右側、緑色で塗られた部分である2020年の結果を見てみましょう。2020年1月から3月までは、時系列分析の予測値と実測値がほぼ一致していますが、2020年4月からは、予測値と実測値が大きく乖離しており、特に4月、5月は顕著です。

 

2020年の各月について、実際の離婚件数から、時系列分析によって予測された離婚件数を引き算して乖離度合い(予測誤差)を調べてみます。下の図は、月ごとの乖離度合いを示したものです。実際の離婚件数と予測された離婚件数が一致する場合、縦軸の値は0になります。

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この図からも、2020年1月から3月はほぼ予想通りの離婚件数であったが、4月以降は予想される離婚件数より少ないことがわかります。6月、7月は上昇傾向であることを示しましたが、予測される離婚件数に比べれば2,000件程度少ないのです。

 

  • コロナ離婚が表面化されるのはもう少し先かも?

実は、この記事を2020年6月の離婚件数の速報値が発表される8月下旬に執筆することを考えていました。ただ6月に大きく上昇に転じていたので、7月もさらに上昇するのか確認してから執筆することにしました。

 

2020年7月の結果は実測値でみると若干の上昇傾向はありますが、時系列分析の予測誤差をみると、2020年6月とあまり違いがありません。筆者は、7月の予測誤差は減少している(離婚件数は予測される離婚件数との乖離が小さくなっている)ことを予想していましたが、そうではなかったのです。

 

景気と同様にコロナ離婚の表面化が、少し遅れてやってくるとするならば、2020年8月以降は、離婚件数が予測される離婚件数を上回ることは十分考えられます。もう少し先のデータが得られてから、再度検証したいと思います。

 

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