統計解析ソフト JMP ブログ

プログラミングなしで使える、インタラクティブで可視的な統計解析ソフト「JMP(ジャンプ)」です。統計初心者の方、データ分析を始めてみたい方に向けて情報を発信しています。

祝!藤井聡太新棋聖 驚くべき勝率に隠された不利な状況をデータで読み解く

2020年7月16日、ついに藤井棋聖が誕生しました。私はあまり将棋が強くありませんが、明るいニュースがない昨今、棋聖戦の挑戦権獲得の前からどうなるか注目していました。

 

藤井棋聖になるまでの道のりで、多くの対戦がなされていますが、実は相当不利な状況で多くの勝ち星を挙げているのです。今回はそこをデータで考察してみましょう。

 

 

  • 公式戦の勝敗

まずは、藤井棋聖の、2016年度のデビューから棋聖獲得までに戦った公式戦の勝敗をまとめてみます。

f:id:JMP_Japan:20200717110103p:plain

183勝34敗で、勝率84.3%と堂々たる成績です。プロ棋士では、たとえ1年間の成績でも80%以上の勝率を残すのは非常に難しいと言われています。

 

  • 先手、後手の割合

今度は、公式戦の先手(番)と後手(番)の割合を同様にまとめてみます。

f:id:JMP_Japan:20200717110156p:plain

一般に将棋では、後手は先手に比べ若干不利だと言われています。棋士の先手後手は振り駒(歩を振り放ってランダムに決める方法)や、対局ごとに先手、後手、先手、後手・・というように先手、後手交互に指すケースがあります。ただ、ある程度対局数がある棋士であれば、先手と後手の割合は50%ずつになることが期待されます。しかし、藤井棋聖の場合は、後手の割合が56%と非常に高いのです。今回、棋聖を獲得した対局でも後手で勝利しました。

 

後手の割合が確率的に高いことを統計的に示すために割合の検定を行ってみます。帰無仮説を“後手の割合は50%である”、対立仮説を”後手の割合は50%より大きい” としたときの仮説検定の結果を示します。

f:id:JMP_Japan:20200717110248p:plain

検定のp値は0.0515です。有意水準を5%とするとぎりぎり有意ではないですが、ほぼ5%に近い値なのです。

 

ここで出てくるp値の0.0515(約5.2%)とは次の確率を表していることになります。

 

細工をしていない歩の駒(表と裏がでる確率が等しい)を217回投げて、そのうち121回以上裏(と金)がでる確率を示しています。どちらも同じ確率ででるのであれば、217回中その半分である108回か109回が期待される裏の枚数です。偶然121回以上も裏がでる確率は約5.2%で、非常に稀なことなのです。

 

今後さらに対局が増えれば、先手、後手の割合が等しくなっていくと思われますが、現時点ではかなり不利な環境で、高い勝率を残していることになります。

 

  • 先手/後手と勝敗の関係は

では、先手の勝率と後手の勝率を比較してみましょう。統計では2つのカテゴリ変数間の関係をみるときにクロス集計を行いますが、次のようなモザイク図を描くと視覚的にわかりやすく関係を考察できます。

f:id:JMP_Japan:20200717110325p:plain

縦軸が勝ち負けの割合を示しますが、これを先手/後手で分けて勝ち負けの割合を表しています。

横軸は先手と後手のデータ数の割合に比例して幅を決めています。先に示したように藤井棋聖は後手が多いので、後手の幅が先手の幅に比べて広くなっています。

 

縦軸でみると赤色の棒の長さが勝ちの割合を示しますが、先手の勝率は87.5%、後手の勝率は81.8%で、その差は約5.7%です。藤井棋聖も例外なく、先手の勝率が良いのです。藤井棋聖が得意としている角換わりの戦法は先手が有利だと言われていますので、納得のいく結果です。

 

対戦相手の強さなども考慮すべきなので単純には言えませんが、もし後手の割合がほぼ対等である50%であったのであれば、もっと勝率は高くなっているのかもしれません。

 

  • 年度別に後手の割合と勝率を見てみると

今度は、年度別に後手の割合と勝率をみるために、グラフを描いてみます。2016年度は藤井棋聖のプロデビューの年ですが、対戦数が少ないため、2016年、2017年で1つのカテゴリにまとめています。

 

棒グラフ(青色):年度ごとの勝率を表します(左軸)。

折れ線グラフ(赤色):年度ごとの後手の割合を示します(右軸)。後手の割合が50%のところに参照線を引いています。

 

f:id:JMP_Japan:20200717110413p:plain

折れ線グラフから2019年度までは後手が非常に多かったことがわかります。特に2018年度は後手の割合が約66%であり、3回中2回は後手という不運さです。それでも、どの年度もコンスタントに高い勝率を残しているのが、素晴らしいです。2019年度の後手の割合は約52.3%とその前の年より割合は低くなっていますが、タイトル戦の本戦や挑戦者決定戦に出場して強い棋士と当たるようになり、若干勝率が落ちていますが、80%以上をキープしているのはさすがです。

 

2020年度は、さらに強い棋士と当たる回数が増えてくるでしょう。その中で、高い勝率を残せるのかは注目ですが、後手の割合がどうなるのかも注目です。

 

次回は、対局時間も含めて勝敗を調べてみます。

 

さあ始めましょう。最新版JMP 15 のダウンロードは下から!

www.jmp.com